大阪大学研究データポリシー
研究計画とデータマネジメント 〈 学習編 〉
前文
大阪大学(以下「本学」という。)は、懐徳堂・適塾以来の自由で闊達な精神で、人間そのものや人間が構成する様々な社会、及びそれを取り巻く環境や自然のあらゆる分野について、また、それら相互の関係について、その真理を探求し、世界最先端の学術研究の場となることをめざしてきた。また、実学の伝統を生かし、基礎と応用のバランスに配慮して、現実社会の要請に応える教育研究を実践するとともに、あらゆる学問分野の相互補完性を重視し、新時代に適合する分野融合型の教育研究を推進することも基本理念として掲げてきた。
研究データを適切に管理し、広く世界に公開することは、本学における研究成果の価値を守り高めるだけでなく、我が国を代表するイノベーティブな大学として、社会との共創活動の実践(OUエコシステム)における研究データの高度な利活用を促進でき、本学の基本理念を実現することに繋がる。
ポリシー策定の目的
本学の研究活動に従事する研究者の主体的な研究活動を最大限に尊重した上で、本学の研究活動における研究データの取扱いに関する基本方針を定め、もって本学の基本理念の実現に寄与することを目的とする。
【解説】
ポリシー策定の背景
これまでも研究データは研究活動に欠かせない要素であり、研究者は既に研究データ管理を行っている。その中で、各分野に適した効率の良い研究データ管理の環境を整えてきたのは研究者であり、これらの最適化された研究活動や研究データ管理の手法は尊重されるべきである。その上で、研究公正やオープンサイエンスの観点から、研究データ管理に求められている以下の状況をもとに、大阪大学研究データポリシーを定める。
-研究者と機関との協働による組織的・統一的な対応
研究データは日に日に膨大になり、研究者や研究室単位ではなく大学全体として管理が必要になってきている。大学内の各組織が横断的に協力体制を整える拠り所となる研究データ管理の基本方針が求められる。
-研究公正およびオープンサイエンスのための適切な研究データ管理の促進
研究データは研究公正において重要なエビデンスであり、研究者のみならず大学による説明責任も問われる。研究データポリシーによる全学的なデータガバナンスの方針を示すことが求められている。また、オープンサイエンスの観点から、エビデンスデータの管理に加え、それ以外の研究データの管理による研究効率化やイノベーション創出が求められる。データの特性から公開すべきもの(オープン)と保護するもの(クローズ)を分別して公開するオープン・アンド・クローズ戦略に基づき、新しいサイエンスの進め方(研究データの公開・利活用を念頭に置いた研究データ管理)が求められている。
参照文献
・大学ICT推進協議会(AXIES), 大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン(2021年7月1日発行), https://rdm.axies.jp/_media/sites/14/2021/07/urdp-guideline.pdf, p.4.
定義
研究者
本ポリシーにおける「研究者」とは、本学における研究活動に従事する全ての教職員、学生等を指す。
研究データ
本ポリシーにおける「研究データ」とは、本学の研究活動の過程で研究者によって取得・収集・生成された情報、またはそれに付随する活動によって生成された情報を指し、デジタルか否かを問わない。
研究データ管理
本ポリシーにおける「研究データ管理」とは、研究者によるデータの取得・収集から公開、利活用等までのデータライフサイクルの各段階におけるデータの管理を指す。
【解説】
本ポリシーの対象となる研究者、研究データ、研究データ管理について定義している。研究活動とは、研究実施前(研究計画の立案など)、研究実施中(データの取得・収集、生成、解析、加工、共有、保存など)、研究実施後(データの保存・移動、研究成果の発表など)の研究に関わるすべての活動を指す。
(1)研究者の定義
本学における研究活動に従事する全ての教職員や学生等には、研究活動全般を主導・管理する研究者だけではなく、研究活動の過程で研究データを取り扱う研究支援者も含まれ、それらの者も、各自の役割等に応じて研究データ管理を行うことが求められる。
また、本学以外の研究機関や民間企業等に所属する者であっても、本学に所属する立場を得て研究活動に従事する者は、本ポリシーにおける研究者に含まれる。
(2)研究データの定義
研究活動を通じて取り扱う研究素材となる一次データ、中間過程で生まれる二次データ、研究成果の根拠データ(エビデンスデータ)、キュレーション等がなされた整理データなどがあるが、これらを問わないデータ全般を指す。
※事務作業によって生成されるデータ(会議録など)や学生が教育を受ける上で取得・収集または生成したデータ(レポートなど)は除く
①一次データ
研究対象から新規に収集・生成されたオリジナルの研究データ(生データ)
②二次データ
一次データを活用した研究データ(加工データ、解析・分析データなど)
③根拠データ(エビデンスデータ)
研究成果の主張を支え、もしくはその再現性を担保するデータ
④整理データ
研究者やデータキュレーターなどによって、データの公開・利活用のために整えられたデータ
[データ例]
観測データ、試験データ、調査データ、臨床データ、実験ノート、フィールドノート、メディアコンテンツ、プログラム、標本、史資料、アンケート表、論文、発表・講演資料など
(3)研究データ管理の定義
研究データ管理は、データの取得・収集、生成、解析、加工、保存、共有、公開、利活用等の研究活動の各段階において行われなければならない。
参照文献
・大学ICT推進協議会(AXIES), 大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン(2021年7月1日発行), https://rdm.axies.jp/_media/sites/14/2021/07/urdp-guideline.pdf, p.27-28.
研究者の責務
研究実施前に策定される研究データ管理計画に沿って、研究者は以下の責務を果たし、研究データ管理を行わなければならない。
研究データのライフサイクル

研究データの取得・収集、保存
研究者は、研究活動の公正性を示すのみならず研究データそのものの価値を高めるために、関係する法令、学内規則、研究倫理その他の規範を遵守した上で、当該研究者が判断する適切な方法により、研究データを取得・収集し、保存しなければならない。
研究データの公開・利活用
研究者は、研究活動において、研究データが新時代に適合する分野融合型の研究を推進する貴重な種と成り得るという認識のもと、可能な限り当該データを社会に公開し、その利活用の促進に努めることを原則とした上で、関係する法令、学内規則、研究倫理その他の規範や別途大学内で定められる研究データの公開・利活用に関する方針を遵守しなければならない。また、公開にあたっては、利活用を促進するために研究データの品質の確保に努めなければならない。
FAIR原則:データの共有・公開時に考慮すべき原則
Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)
ただし 関連する法令、オープン・アンド・クローズ戦略(※)等の制約あり
※国益や大学の利益に繋がる財産的価値のある成果物の保護、分野の特性など考慮した戦略)
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【解説】
研究活動におけるデータライフサイクルを開始するにあたり、研究代表者は研究開始後のデータの取扱いを定めた研究データ管理計画(※1)を研究開始前に策定し、その計画に沿ってデータを管理しなければならない。
(1)研究データの取得・収集、保存
取得・収集、さらに解析や加工されるデータは、データ共有・公開・利活用を見据えて、知的財産法や個人情報保護法などをはじめ、関連する法令等(※2)を遵守することや、FAIR原則(※3)に則りデータ来歴を明らかにした上で保存する必要がある。
研究終了時(異動・退職を含む)は、研究データ管理計画や大阪大学における研究データの保存等に関するガイドラインを参照し、分類(「保存する研究データ」、「破棄する研究データ」など)・保存し、保存期間終了後には適切な処理を行う。
(2)研究データの公開・利活用
オープンサイエンス推進の観点から、FAIR原則(※3)に従い、研究データは可能な範囲で公開することが求められる。ただし、関連する法令等(※2)、オープン・アンド・クローズ戦略(国益や大学の利益に繋がる財産的価値のある成果物の保護、分野の特性など考慮した戦略)等に留意しなければならない。また、研究者は個別の状況(データ処理が不完全なデータや公開によって間違った結果が発表される可能性があるデータなど)に応じて、データの公開について判断する必要があるとともに、データの利活用を見据えて、データの信頼性、相互運用性、正確性、機械可読性、トレーサビリティなどの側面にも注意を払い、それぞれの確保に努めなければならない。
※1 研究データ管理計画について
①「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」(2017年12月, 経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/datamanagementguideline_2.pdf, p26-27.
②「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJST の基本方針ガイドライン」(2022年4月, 科学技術振興機構)
https://www.jst.go.jp/pr/intro/openscience/guideline_openscience_r4.pdf
③「AMED 研究データ利活用に係るガイドライン 2.0 版」(2021年11月, 日本医療研究開発機構)
https://www.amed.go.jp/content/000089256.pdf
※2 関連する法令・学内規則などについて(例)
① 特許法
【学内】大阪大学発明規程
② 著作権法
③ 不正競争防止法
④ 個人情報の保護に関する法律
【学内】国立大学法人大阪大学の保有する個人情報の管理に関する規程
⑤ 外国為替及び外国貿易法
【学内】大阪大学安全保障輸出管理規程
⑥ 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
⑦[外国とのやりとりがある場合] 外国の知的財産法やEU一般データ保護規則などの個人情報の保護に関わる法規
⑧ 研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定)
【学内】大阪大学における公正な研究活動の推進に関する規程
【学内】大阪大学における研究データの保存等に関するガイドライン
⑨ 外部機関との秘密保持契約、外部事業者からデータを入手する際のサービス利用規約等
※3 FAIR原則について
データの共有・公開時に考慮すべき原則として世界で広まっており、FAIRは「Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)」 の略。
出典:
FORCE11: THE FAIR DATA PRINCIPLES (2016). https://www.force11.org/group/fairgroup/fairprinciples, NBDC研究チーム(訳), “FAIR原則(「THE FAIR DATA PRINCIPLES」和訳)” (2019). https://doi.org/10.18908/a.2019112601
参照文献
・内閣府統合イノベーション戦略推進会議, 公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方(2-4.研究データの公開・共有の考え方),2021年4月27日,
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kokusaiopen/sanko1.pdf, p.2-3.
・研究データ基盤整備と国際展開ワーキング・グループ報告書,研究データ基盤整備と国際展開
大学の責務
研究データ管理を支援する環境の整備
オープンサイエンス推進室と関係部署が連携し、研究データ管理を支援する環境の整備を図る。
- 適切な管理プラットフォームの提供
研究推進部、情報推進部、附属図書館 - 研究データのメタデータ作成支援(研究データ利活用を促進)
附属図書館 - 研究データ管理の啓発、研究データ管理計画作成の支援など
研究推進部、附属図書館 - 法および倫理的な支援(新たな研究分野の成果創出)
研究推進部、共創推進部、共創機構、経営企画オフィス - 共同研究や産学連携等に必要な支援(研究データ利活用の促進)
共創推進部、共創機構 - 時代に合わせたポリシーの見直し
研究推進部
【解説】
本学は、オープンサイエンス推進室(室長:研究担当理事)を設置し、以下の事項に関して、関係部署と連携し、研究データ管理を支援する環境の整備を図る。
(1)適切な研究データ管理を行うためのデータ管理プラットフォームを提供し、それらを公開するためのデータ公開プラットフォームを提供する。(研究推進部、情報推進部、附属図書館)
(2)研究データのメタデータ作成を支援し、研究データの利活用を促進する。(附属図書館)
(3)研究データの管理に関して啓発し、研究データ管理計画作成の支援など研究者に必要な支援を行う。(研究推進部、附属図書館)
(4)法および倫理的要件を満たすべき研究データの使用に当たって、必要な支援等を行い、新たな研究分野の成果創出を支援する。(研究推進部、共創推進部、共創機構、経営企画オフィス)
(5)研究データの利活用を促進する共同研究や産学連携等に必要な支援を行う。(共創推進部、共創機構)
(6)社会状況や学術状況の変化あるいは個々の分野における法および倫理的要件などを尊重し、適宜本ポリシーの見直しを行う。(研究推進部)